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「どう作るか」より「何を作るか」

「設計論」は一般に、どう作るべきかの指針を与えます。トヨタ生産方式(TPS)もまた「必要なものを必要な時に必要だけ作る」と謳っているように「どう作る」かを示すものです。

大野耐一さんの著書によると、トヨタ生産方式で「かんばん」や「あんどん」などといった変わった言葉を使ったのは、特に海外の企業にマネされにくくしたいと考えたからだとあります。当初は「大野式」と呼ばれ、その極端な内容にトヨタ社内にも反発があり、豊田英二さんが「これをトヨタ生産方式と名付けよう」と発言されてから、現在のようにトヨタのお家芸として扱われるようになったといいます。

今やTPSはリーン生産方式として理論付けられ、世界中の製造業で採用されています。こうなると、当然ながら勝負は「何を作るか」に移ってきます。実際のトヨタの強みはCE制度を中核とするトヨタ「開発」方式(TPD)に移っているといえます。

長い歴史を持つ製造業である自動車会社においては、エンジン/ボデー/シャシー/先進安全/材料/電子等の各開発部署が大きな発言力を持ちます。特にエンジンは、’70年代の厳しい排出ガス規制を突破するためにリソースを徹底的に集中して以来大きな力を保っているといわれています。優秀な人材が多いので、ハイブリッドの開発や電動化などにも想像以上に柔軟な対応ができるのですが、いちいち個々のクルマにベストなエンジンを作っていては効率が悪いという議論に陥りがちです。これはどの会社でも同じでしょうし、そこを正面から捉えて「一括企画」で成果を上げているマツダのような会社もあります。

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自動車というのは、とても不思議な商品です。技術的にどんなに優れていても、デザインがイマイチでさっぱり売れないこともありますし、その逆も起こります。嗜好品/工芸品としての価値もまだまだありますし、好きな時に好きな道で好きなところへ行ける、人間の移動する能力を100倍にも高めてくれるという人間の本能に関わる価値も大事だと思います。燃費は「どこまでも行ける感」のためにも重要だと思いますし、スポーツカーへのこだわりも絶対に捨てて欲しくないと思います。

自動車産業は一方で、2-3車種続けて失敗すると大きな会社でも屋台骨が危うくなるという水商売のような一面もあります。高度経済成長時代のような右肩上がりは期待できず、景気や為替の動きに猛烈な影響を受けます。魅力的なスポーツカーを用意することは大事ですが、一方で、コモディティ化の流れは押しとどめられないというか、軽トールワゴンやミニバンの普及を見るにつけ、すでに完全にコモディティ化していると見るべきだと思います。スポーツカーで本能に訴える一方、コモディティとして魅力のある製品ラインナップを揃えられないところが負けるのではないでしょうか。

こう感じてしまうのも、自分が子供の頃「暮しの手帖」という雑誌で、(朝ドラにも取り上げられた)花森安治さんが家庭電化製品の性能評価を徹底的にやっていたのを、母親の実家で読みふけっていたからだと思います。コモディティとしてのあるべき姿を追求していたと思いますし、家電メーカーへの寄与はとても大きいものがあったと思います。

CE制度に話を戻します。製品部署を横軸としたら、車ごとの製品の縦軸を通すのがCEです。CEは自ら市場調査をしたり、ディーラーと密接な関係を築いたりしてお客様の声を確実に製品に反映させることができます。CEは、魅力ある企画を立て、性能だけでなくコストや質量など全ての項目に目を配り、製品化までの全権・全責任を負います。このマトリクス組織では、各設計者に自部署とCEで上司が二人いることになり、海外では受け入れがたいと感じる向きもあるようですが、縦軸と横軸のせめぎ合いではCEを上とすることで、開発各部のエゴや過度な効率化による弊害を防ぎ魅力ある商品を送り出すことができます。当然ですがCEの責任が問われる場面もあり、色々な意味で醍醐味のある仕事だと思います。

Googleが近年採用しているProduct Managerという仕組みは、このCE制度に着想を得たものと言われます。個性豊かなCEを育て、自動車だけでなくモビリティサービスをリードできるCEを輩出することが求められているのではないでしょうか。

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TRIZと様々な「設計手法」「発想法」について

受験生の頃、私はいわゆる参考書コレクターでした。当時、「頭の体操」や「ホイホイ勉強術」といったベストセラーで知られる多湖輝先生の本に「受験参考書が丸まる一冊役に立つなどという事はない。一冊の内5ページでも参考になったと思えたらその本は当たりである。」と書かれていたことを思い出します。

それから、方法論の類は、本人がその課題意識からボトムアップで勉強して採用するもので、トップダウンで強制するものではないということです。

さて、‘96年、TRIZが「超発明術」というキャッチフレーズで「日経メカニカル」誌に特集され、ちょっとしたブームが起こりました。(私も一部の記事を書かせていただきました。)

「超発明術」は大変キャッチーなコピーで、当時のブームのけん引役を果たしたといえますが、多くの誤解も招いてしまったように思います。過去には、私自身も、いわゆるTRIZコンサルの方が、(魔法のような超発明術であるならば)TRIZで発明されたヒット商品を今すぐ見せろと詰め寄られるところを見たことがあります。

そもそも、古今東西「手法」と称されるものに万能なものはありません。TRIZは基本的に物理的なリソースが定義できる機械・ハードウエアなどを対象にしていると思いますし、例えばトヨタ生産方式(TPS)は工場におけるハードウエア量産に適用するものです(トヨタの実践の中にビジネスやソフト開発に応用できる知見はもちろんたくさんありますが、それはまた別の話)。それぞれ唱導される方の深く広い経験に基づいたものですので、森羅万象に適用できるかのように錯覚してしまうこともあります。

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TRIZは「発想法」に分類するのが自然だと思いますが、簡単に言えば
・解決すべき課題を物理的表現に言い換える(手を乾かす→液体を動かす)
・「物質-場」などのテンプレートに当てはめる
・標準手法の適用を試みて、技術的矛盾を解決するアイデアを探す
という感じで、先人の知恵を別の新しい分野に適用できるようにしたものと言えます。

興味深いのは、TRIZがすでに課題の周辺にあるものをリソースとして活用しようとするところで、低コスト化のアイデアもいろいろ引き出せる反面、Nam P. Suh先生の公理的設計法でも戒めている「機能の独立性を損なう」案が出勝ち、という問題があります。

物理的な背反・矛盾を解消するヒントを出せるTRIZですが、皮肉なことにTRIZ自体に関わるこの矛盾は解けず、冒頭の受験参考書論のようにさまざまな手法の観点を組み合わせて(機能の独立とリソース活用の)バランスを探る、あるいは、公理的設計法の側で「リソースを活用する」といった項目を必要機能に織り込むといった工夫が必要になります。現実の製品設計では頻繁に起こることだと思います。

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